tibet.gif by 長岡 洋幸

 
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老けて見える人が多い。髪を編んでいるこの男も、実は40歳にもなっていない。

 1986年春、中国を旅していた私は、四川省の古都、成都を訪れた。当時から、中国は海外からの観光旅行者の受け入れに力を注いでいて、各地に近代的なホテルを建設していた。例にもれず成都でも、広い中国式の庭園を持ち、ロビーには豪華なシャンデリアを備えたモダンなホテルが建てられていた。
 そのロビーを歩いていて、私は正面から歩いてくる3人の男たちに目を奪われた。日に焼けた顔は、何日も洗っていないのか垢で黒光りし、髪も固まっている。チュパと呼ばれる毛皮のコートも、埃と油にまみれている。しかし威風堂々たる3人の男は、腰から大きな刀をぶら下げ、その目からは鋭い光を放っていた。きらびやかなホテルのロビーにおいて、彼らは明らかに周囲を圧倒していた。
 3人はまぎれもなくチベットから来た人たちだった。その強烈な印象は、いまでも強く脳裏に焼きついている。以来、私はあの鋭い光がどこから来るのかを捜し求めて、12年間にわたってチベットをチベットを歩きつづけた。

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早朝のポタラ宮殿。主のいない宮殿はひっそりとたたずんでいた。

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チベット・ラサのデプン寺の南にある山の斜面に、一年に一度、夜明けとともにたった一度だけチベット最大のタンカ(布に描いた仏画)が掲げられる。

 チベットの文化は、チベット仏教を抜きにしては考えられない。
 チベット仏教は、長年密教として異端視されてきたが、近年ではインドで仏教が誕生したころの原型を最もよく残している宗教として、その精神性は高く評価されている。現在でもその教えはチベットの人々の生活に深く浸透している。民家には、大きな仏像といくつかの経典を安置した仏間が必ずあるし、数千キロ離れた聖地へ、手足の幅ずつ匍匐する五体投地礼のみで、何年もかけて巡礼する人も多い。チベット仏教を底流に持つ文化圏は広範囲にわたっており、中国チベットはもちろん、インド、ネパールなど数ヶ国にまたがっている。

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チベッタン・オペラとも呼ばれるチベットの伝統舞踊、アチェ・ラモ。美しい女たちが軽やか舞う。

 時代の波とともに、またそれぞれの国の情勢によって、チベットの文化も生活様式も大きく変化しようとしている。彼らとて生活を向上させたいと願うのは当然のことで、誰もが国の安定を期待している。そんななかで仏教の教えを信じ、チベット人でありつづけようとしているのも事実なのだ。
 チベットという厳しい自然環境の地で生活するけれらの姿を、これからも見つづけてゆきたいと思う。

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ダバと呼ばれるホースレース。このレースは、馬の速さを競うのではなく、馬を全力で走らせ地上に置かれた聖なる布をどれだけ多くつかみ取れるかを競う。

by 長岡 洋幸

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